ヨハネによる福音書
第9章
 9:1イエスが道をとおっておられるとき、生れつきの盲人を見られた。 9:2弟子たちはイエスに尋ねて言った、「先生、この人が生れつき盲人なのは、だれが罪を犯したためですか。本人ですか、それともその両親ですか」。 9:3イエスは答えられた、「本人が罪を犯したのでもなく、また、その両親が犯したのでもない。ただ神のみわざが、彼の上に現れるためである。 9:4わたしたちは、わたしをつかわされたかたのわざを、昼の間にしなければならない。夜が来る。すると、だれも働けなくなる。 9:5わたしは、この世にいる間は、世の光である」。 9:6イエスはそう言って、地につばきをし、そのつばきで、どろをつくり、そのどろを盲人の目に塗って言われた、 9:7「シロアム(つかわされた者、の意)の池に行って洗いなさい」。そこで彼は行って洗った。そして見えるようになって、帰って行った。 9:8近所の人々や、彼がもと、こじきであったのを見知っていた人々が言った、「この人は、すわってこじきをしていた者ではないか」。 9:9ある人々は「その人だ」と言い、他の人々は「いや、ただあの人に似ているだけだ」と言った。しかし、本人は「わたしがそれだ」と言った。 9:10そこで人々は彼に言った、「では、おまえの目はどうしてあいたのか」。 9:11彼は答えた、「イエスというかたが、どろをつくって、わたしの目に塗り、『シロアムに行って洗え』と言われました。それで、行って洗うと、見えるようになりました」。 9:12人々は彼に言った、「その人はどこにいるのか」。彼は「知りません」と答えた。
 9:13人々は、もと盲人であったこの人を、パリサイ人たちのところにつれて行った。 9:14イエスがどろをつくって彼の目をあけたのは、安息日であった。 9:15パリサイ人たちもまた、「どうして見えるようになったのか」、と彼に尋ねた。彼は答えた、「あのかたがわたしの目にどろを塗り、わたしがそれを洗い、そして見えるようになりました」。 9:16そこで、あるパリサイ人たちが言った、「その人は神からきた人ではない。安息日を守っていないのだから」。しかし、ほかの人々は言った、「罪のある人が、どうしてそのようなしるしを行うことができようか」。そして彼らの間に分争が生じた。 9:17そこで彼らは、もう一度この盲人に聞いた、「おまえの目をあけてくれたその人を、どう思うか」。「預言者だと思います」と彼は言った。 9:18ユダヤ人たちは、彼がもと盲人であったが見えるようになったことを、まだ信じなかった。ついに彼らは、目が見えるようになったこの人の両親を呼んで、 9:19尋ねて言った、「これが、生れつき盲人であったと、おまえたちの言っているむすこか。それではどうして、いま目が見えるのか」。 9:20両親は答えて言った、「これがわたしどものむすこであること、また生れつき盲人であったことは存じています。 9:21しかし、どうしていま見えるようになったのか、それは知りません。また、だれがその目をあけて下さったのかも知りません。あれに聞いて下さい。あれはもうおとなですから、自分のことは自分で話せるでしょう」。 9:22両親はユダヤ人たちを恐れていたので、こう答えたのである。それは、もしイエスをキリストと告白する者があれば、会堂から追い出すことに、ユダヤ人たちが既に決めていたからである。 9:23彼の両親が「おとなですから、あれに聞いて下さい」と言ったのは、そのためであった。
 9:24そこで彼らは、盲人であった人をもう一度呼んで言った、「神に栄光を帰するがよい。あの人が罪人であることは、わたしたちにはわかっている」。 9:25すると彼は言った、「あのかたが罪人であるかどうか、わたしは知りません。ただ一つのことだけ知っています。わたしは盲であったが、今は見えるということです」。 9:26そこで彼らは言った、「その人はおまえに何をしたのか。どんなにしておまえの目をあけたのか」。 9:27彼は答えた、「そのことはもう話してあげたのに、聞いてくれませんでした。なぜまた聞こうとするのですか。あなたがたも、あの人の弟子になりたいのですか」。 9:28そこで彼らは彼をののしって言った、「おまえはあれの弟子だが、わたしたちはモーセの弟子だ。 9:29モーセに神が語られたということは知っている。だが、あの人がどこからきた者か、わたしたちは知らぬ」。 9:30そこで彼が答えて言った、「わたしの目をあけて下さったのに、そのかたがどこからきたか、ご存じないとは、不思議千万です。 9:31わたしたちはこのことを知っています。神は罪人の言うことはお聞きいれになりませんが、神を敬い、そのみこころを行う人の言うことは、聞きいれて下さいます。 9:32生れつき盲であった者の目をあけた人があるということは、世界が始まって以来、聞いたことがありません。 9:33もしあのかたが神からきた人でなかったら、何一つできなかったはずです」。 9:34これを聞いて彼らは言った、「おまえは全く罪の中に生れていながら、わたしたちを教えようとするのか」。そして彼を外へ追い出した。
 9:35イエスは、その人が外へ追い出されたことを聞かれた。そして彼に会って言われた、「あなたは人の子を信じるか」。 9:36彼は答えて言った、「主よ、それはどなたですか。そのかたを信じたいのですが」。 9:37イエスは彼に言われた、「あなたは、もうその人に会っている。今あなたと話しているのが、その人である」。 9:38すると彼は、「主よ、信じます」と言って、イエスを拝した。 9:39そこでイエスは言われた、「わたしがこの世にきたのは、さばくためである。すなわち、見えない人たちが見えるようになり、見える人たちが見えないようになるためである」。 9:40そこにイエスと一緒にいたあるパリサイ人たちが、それを聞いてイエスに言った、「それでは、わたしたちも盲なのでしょうか」。 9:41イエスは彼らに言われた、「もしあなたがたが盲人であったなら、罪はなかったであろう。しかし、今あなたがたが『見える』と言い張るところに、あなたがたの罪がある。

第10章
 10:1よくよくあなたがたに言っておく。羊の囲いにはいるのに、門からでなく、ほかの所からのりこえて来る者は、盗人であり、強盗である。 10:2門からはいる者は、羊の羊飼である。 10:3門番は彼のために門を開き、羊は彼の声を聞く。そして彼は自分の羊の名をよんで連れ出す。 10:4自分の羊をみな出してしまうと、彼は羊の先頭に立って行く。羊はその声を知っているので、彼について行くのである。 10:5ほかの人には、ついて行かないで逃げ去る。その人の声を知らないからである」。 10:6イエスは彼らにこの比喩を話されたが、彼らは自分たちにお話しになっているのが何のことだか、わからなかった。
 10:7そこで、イエスはまた言われた、「よくよくあなたがたに言っておく。わたしは羊の門である。 10:8わたしよりも前にきた人は、みな盗人であり、強盗である。羊は彼らに聞き従わなかった。 10:9わたしは門である。わたしをとおってはいる者は救われ、また出入りし、牧草にありつくであろう。 10:10盗人が来るのは、盗んだり、殺したり、滅ぼしたりするためにほかならない。わたしがきたのは、羊に命を得させ、豊かに得させるためである。 10:11わたしはよい羊飼である。よい羊飼は、羊のために命を捨てる。 10:12羊飼ではなく、羊が自分のものでもない雇人は、おおかみが来るのを見ると、羊をすてて逃げ去る。そして、おおかみは羊を奪い、また追い散らす。 10:13彼は雇人であって、羊のことを心にかけていないからである。 10:14わたしはよい羊飼であって、わたしの羊を知り、わたしの羊はまた、わたしを知っている。 10:15それはちょうど、父がわたしを知っておられ、わたしが父を知っているのと同じである。そして、わたしは羊のために命を捨てるのである。 10:16わたしにはまた、この囲いにいない他の羊がある。わたしは彼らをも導かねばならない。彼らも、わたしの声に聞き従うであろう。そして、ついに一つの群れ、ひとりの羊飼となるであろう。 10:17父は、わたしが自分の命を捨てるから、わたしを愛して下さるのである。命を捨てるのは、それを再び得るためである。 10:18だれかが、わたしからそれを取り去るのではない。わたしが、自分からそれを捨てるのである。わたしには、それを捨てる力があり、またそれを受ける力もある。これはわたしの父から授かった定めである」。
 10:19これらの言葉を語られたため、ユダヤ人の間にまたも分争が生じた。 10:20そのうちの多くの者が言った、「彼は悪霊に取りつかれて、気が狂っている。どうして、あなたがたはその言うことを聞くのか」。 10:21他の人々は言った、「それは悪霊に取りつかれた者の言葉ではない。悪霊は盲人の目をあけることができようか」。
 10:22そのころ、エルサレムで宮きよめの祭が行われた。時は冬であった。 10:23イエスは、宮の中にあるソロモンの廊を歩いておられた。 10:24するとユダヤ人たちが、イエスを取り囲んで言った、「いつまでわたしたちを不安のままにしておくのか。あなたがキリストであるなら、そうとはっきり言っていただきたい」。 10:25イエスは彼らに答えられた、「わたしは話したのだが、あなたがたは信じようとしない。わたしの父の名によってしているすべてのわざが、わたしのことをあかししている。 10:26あなたがたが信じないのは、わたしの羊でないからである。 10:27わたしの羊はわたしの声に聞き従う。わたしは彼らを知っており、彼らはわたしについて来る。 10:28わたしは、彼らに永遠の命を与える。だから、彼らはいつまでも滅びることがなく、また、彼らをわたしの手から奪い去る者はない。 10:29わたしの父がわたしに下さったものは、すべてにまさるものである。そしてだれも父のみ手から、それを奪い取ることはできない。 10:30わたしと父とは一つである」。 10:31そこでユダヤ人たちは、イエスを打ち殺そうとして、また石を取りあげた。 10:32するとイエスは彼らに答えられた、「わたしは、父による多くのよいわざを、あなたがたに示した。その中のどのわざのために、わたしを石で打ち殺そうとするのか」。 10:33ユダヤ人たちは答えた、「あなたを石で殺そうとするのは、よいわざをしたからではなく、神を汚したからである。また、あなたは人間であるのに、自分を神としているからである」。 10:34イエスは彼らに答えられた、「あなたがたの律法に、『わたしは言う、あなたがたは神々である』と書いてあるではないか。 10:35神の言を託された人々が、神々といわれておるとすれば、(そして聖書の言は、すたることがあり得ない) 10:36父が聖別して、世につかわされた者が、『わたしは神の子である』と言ったからとて、どうして『あなたは神を汚す者だ』と言うのか。 10:37もしわたしが父のわざを行わないとすれば、わたしを信じなくてもよい。 10:38しかし、もし行っているなら、たといわたしを信じなくても、わたしのわざを信じるがよい。そうすれば、父がわたしにおり、また、わたしが父におることを知って悟るであろう」。 10:39そこで、彼らはまたイエスを捕えようとしたが、イエスは彼らの手をのがれて、去って行かれた。
 10:40さて、イエスはまたヨルダンの向こう岸、すなわち、ヨハネが初めにバプテスマを授けていた所に行き、そこに滞在しておられた。 10:41多くの人々がイエスのところにきて、互に言った、「ヨハネはなんのしるしも行わなかったが、ヨハネがこのかたについて言ったことは、皆ほんとうであった」。 10:42そして、そこで多くの者がイエスを信じた。

第11章
 11:1さて、ひとりの病人がいた。ラザロといい、マリヤとその姉妹マルタの村ベタニヤの人であった。 11:2このマリヤは主に香油をぬり、自分の髪の毛で、主の足をふいた女であって、病気であったのは、彼女の兄弟ラザロであった。 11:3姉妹たちは人をイエスのもとにつかわして、「主よ、ただ今、あなたが愛しておられる者が病気をしています」と言わせた。 11:4イエスはそれを聞いて言われた、「この病気は死ぬほどのものではない。それは神の栄光のため、また、神の子がそれによって栄光を受けるためのものである」。
 11:5イエスは、マルタとその姉妹とラザロとを愛しておられた。 11:6ラザロが病気であることを聞いてから、なおふつか、そのおられた所に滞在された。 11:7それから弟子たちに、「もう一度ユダヤに行こう」と言われた。 11:8弟子たちは言った、「先生、ユダヤ人らが、さきほどもあなたを石で殺そうとしていましたのに、またそこに行かれるのですか」。 11:9イエスは答えられた、「一日には十二時間あるではないか。昼間あるけば、人はつまずくことはない。この世の光を見ているからである。 11:10しかし、夜あるけば、つまずく。その人のうちに、光がないからである」。 11:11そう言われたが、それからまた、彼らに言われた、「わたしたちの友ラザロが眠っている。わたしは彼を起しに行く」。 11:12すると弟子たちは言った、「主よ、眠っているのでしたら、助かるでしょう」。 11:13イエスはラザロが死んだことを言われたのであるが、弟子たちは、眠って休んでいることをさして言われたのだと思った。 11:14するとイエスは、あからさまに彼らに言われた、「ラザロは死んだのだ。 11:15そして、わたしがそこにいあわせなかったことを、あなたがたのために喜ぶ。それは、あなたがたが信じるようになるためである。では、彼のところに行こう」。 11:16するとデドモと呼ばれているトマスが、仲間の弟子たちに言った、「わたしたちも行って、先生と一緒に死のうではないか」。
 11:17さて、イエスが行ってごらんになると、ラザロはすでに四日間も墓の中に置かれていた。 11:18ベタニヤはエルサレムに近く、二十五丁ばかり離れたところにあった。 11:19大ぜいのユダヤ人が、その兄弟のことで、マルタとマリヤとを慰めようとしてきていた。 11:20マルタはイエスがこられたと聞いて、出迎えに行ったが、マリヤは家ですわっていた。 11:21マルタはイエスに言った、「主よ、もしあなたがここにいて下さったなら、わたしの兄弟は死ななかったでしょう。 11:22しかし、あなたがどんなことをお願いになっても、神はかなえて下さることを、わたしは今でも存じています」。 11:23イエスはマルタに言われた、「あなたの兄弟はよみがえるであろう」。 11:24マルタは言った、「終りの日のよみがえりの時よみがえることは、存じています」。 11:25イエスは彼女に言われた、「わたしはよみがえりであり、命である。わたしを信じる者は、たとい死んでも生きる。 11:26また、生きていて、わたしを信じる者は、いつまでも死なない。あなたはこれを信じるか」。 11:27マルタはイエスに言った、「主よ、信じます。あなたがこの世にきたるべきキリスト、神の御子であると信じております」。 11:28マルタはこう言ってから、帰って姉妹のマリヤを呼び、「先生がおいでになって、あなたを呼んでおられます」と小声で言った。 11:29これを聞いたマリヤはすぐ立ち上がって、イエスのもとに行った。 11:30イエスはまだ村に、はいってこられず、マルタがお迎えしたその場所におられた。 11:31マリヤと一緒に家にいて彼女を慰めていたユダヤ人たちは、マリヤが急いで立ち上がって出て行くのを見て、彼女は墓に泣きに行くのであろうと思い、そのあとからついて行った。 11:32マリヤは、イエスのおられる所に行ってお目にかかり、その足もとにひれ伏して言った、「主よ、もしあなたがここにいて下さったなら、わたしの兄弟は死ななかったでしょう」。 11:33イエスは、彼女が泣き、また、彼女と一緒にきたユダヤ人たちも泣いているのをごらんになり、激しく感動し、また心を騒がせ、そして言われた、 11:34「彼をどこに置いたのか」。彼らはイエスに言った、「主よ、きて、ごらん下さい」。 11:35イエスは涙を流された。 11:36するとユダヤ人たちは言った、「ああ、なんと彼を愛しておられたことか」。 11:37しかし、彼らのある人たちは言った、「あの盲人の目をあけたこの人でも、ラザロを死なせないようには、できなかったのか」。 11:38イエスはまた激しく感動して、墓にはいられた。それは洞穴であって、そこに石がはめてあった。 11:39イエスは言われた、「石を取りのけなさい」。死んだラザロの姉妹マルタが言った、「主よ、もう臭くなっております。四日もたっていますから」。 11:40イエスは彼女に言われた、「もし信じるなら神の栄光を見るであろうと、あなたに言ったではないか」。 11:41人々は石を取りのけた。すると、イエスは目を天にむけて言われた、「父よ、わたしの願いをお聞き下さったことを感謝します。 11:42あなたがいつでもわたしの願いを聞きいれて下さることを、よく知っています。しかし、こう申しますのは、そばに立っている人々に、あなたがわたしをつかわされたことを、信じさせるためであります」。 11:43こう言いながら、大声で「ラザロよ、出てきなさい」と呼ばわれた。 11:44すると、死人は手足を布でまかれ、顔も顔おおいで包まれたまま、出てきた。イエスは人々に言われた、「彼をほどいてやって、帰らせなさい」。
 11:45マリヤのところにきて、イエスのなさったことを見た多くのユダヤ人たちは、イエスを信じた。 11:46しかし、そのうちの数人がパリサイ人たちのところに行って、イエスのされたことを告げた。 11:47そこで、祭司長たちとパリサイ人たちとは、議会を召集して言った、「この人が多くのしるしを行っているのに、お互は何をしているのだ。 11:48もしこのままにしておけば、みんなが彼を信じるようになるだろう。そのうえ、ローマ人がやってきて、わたしたちの土地も人民も奪ってしまうであろう」。 11:49彼らのうちのひとりで、その年の大祭司であったカヤパが、彼らに言った、「あなたがたは、何もわかっていないし、 11:50ひとりの人が人民に代って死んで、全国民が滅びないようになるのがわたしたちにとって得だということを、考えてもいない」。 11:51このことは彼が自分から言ったのではない。彼はこの年の大祭司であったので、預言をして、イエスが国民のために、 11:52ただ国民のためだけではなく、また散在している神の子らを一つに集めるために、死ぬことになっていると、言ったのである。 11:53彼らはこの日からイエスを殺そうと相談した。 11:54そのためイエスは、もはや公然とユダヤ人の間を歩かないで、そこを出て、荒野に近い地方のエフライムという町に行かれ、そこに弟子たちと一緒に滞在しておられた。
 11:55さて、ユダヤ人の過越の祭が近づいたので、多くの人々は身をきよめるために、祭の前に、地方からエルサレムへ上った。 11:56人々はイエスを捜し求め、宮の庭に立って互に言った、「あなたがたはどう思うか。イエスはこの祭にこないのだろうか」。 11:57祭司長たちとパリサイ人たちとは、イエスを捕えようとして、そのいどころを知っている者があれば申し出よ、という指令を出していた。

第12章
 12:1過越の祭の六日まえに、イエスはベタニヤに行かれた。そこは、イエスが死人の中からよみがえらせたラザロのいた所である。 12:2イエスのためにそこで夕食の用意がされ、マルタは給仕をしていた。イエスと一緒に食卓についていた者のうちに、ラザロも加わっていた。 12:3その時、マリヤは高価で純粋なナルドの香油一斤を持ってきて、イエスの足にぬり、自分の髪の毛でそれをふいた。すると、香油のかおりが家にいっぱいになった。 12:4弟子のひとりで、イエスを裏切ろうとしていたイスカリオテのユダが言った、 12:5「なぜこの香油を三百デナリに売って、貧しい人たちに、施さなかったのか」。 12:6彼がこう言ったのは、貧しい人たちに対する思いやりがあったからではなく、自分が盗人であり、財布を預かっていて、その中身をごまかしていたからであった。 12:7イエスは言われた、「この女のするままにさせておきなさい。わたしの葬りの日のために、それをとっておいたのだから。 12:8貧しい人たちはいつもあなたがたと共にいるが、わたしはいつも共にいるわけではない」。 12:9大ぜいのユダヤ人たちが、そこにイエスのおられるのを知って、押しよせてきた。それはイエスに会うためだけではなく、イエスが死人のなかから、よみがえらせたラザロを見るためでもあった。 12:10そこで祭司長たちは、ラザロも殺そうと相談した。 12:11それは、ラザロのことで、多くのユダヤ人が彼らを離れ去って、イエスを信じるに至ったからである。
 12:12その翌日、祭にきていた大ぜいの群衆は、イエスがエルサレムにこられると聞いて、 12:13しゅろの枝を手にとり、迎えに出て行った。そして叫んだ、
 「ホサナ、
 主の御名によってきたる者に祝福あれ、
 イスラエルの王に」。
12:14イエスは、ろばの子を見つけて、その上に乗られた。それは
 12:15「シオンの娘よ、恐れるな。
 見よ、あなたの王が
 ろばの子に乗っておいでになる」
と書いてあるとおりであった。 12:16弟子たちは初めにはこのことを悟らなかったが、イエスが栄光を受けられた時に、このことがイエスについて書かれてあり、またそのとおりに、人々がイエスに対してしたのだということを、思い起した。 12:17また、イエスがラザロを墓から呼び出して、死人の中からよみがえらせたとき、イエスと一緒にいた群衆が、そのあかしをした。 12:18群衆がイエスを迎えに出たのは、イエスがこのようなしるしを行われたことを、聞いていたからである。 12:19そこで、パリサイ人たちは互に言った、「何をしてもむだだった。世をあげて彼のあとを追って行ったではないか」。
 12:20祭で礼拝するために上ってきた人々のうちに、数人のギリシヤ人がいた。 12:21彼らはガリラヤのベツサイダ出であるピリポのところにきて、「君よ、イエスにお目にかかりたいのですが」と言って頼んだ。 12:22ピリポはアンデレのところに行ってそのことを話し、アンデレとピリポは、イエスのもとに行って伝えた。 12:23すると、イエスは答えて言われた、「人の子が栄光を受ける時がきた。 12:24よくよくあなたがたに言っておく。一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる。 12:25自分の命を愛する者はそれを失い、この世で自分の命を憎む者は、それを保って永遠の命に至るであろう。 12:26もしわたしに仕えようとする人があれば、その人はわたしに従って来るがよい。そうすれば、わたしのおる所に、わたしに仕える者もまた、おるであろう。もしわたしに仕えようとする人があれば、その人を父は重んじて下さるであろう。 12:27今わたしは心が騒いでいる。わたしはなんと言おうか。父よ、この時からわたしをお救い下さい。しかし、わたしはこのために、この時に至ったのです。 12:28父よ、み名があがめられますように」。すると天から声があった、「わたしはすでに栄光をあらわした。そして、更にそれをあらわすであろう」。 12:29すると、そこに立っていた群衆がこれを聞いて、「雷がなったのだ」と言い、ほかの人たちは、「御使が彼に話しかけたのだ」と言った。 12:30イエスは答えて言われた、「この声があったのは、わたしのためではなく、あなたがたのためである。 12:31今はこの世がさばかれる時である。今こそこの世の君は追い出されるであろう。 12:32そして、わたしがこの地から上げられる時には、すべての人をわたしのところに引きよせるであろう」。 12:33イエスはこう言って、自分がどんな死に方で死のうとしていたかを、お示しになったのである。 12:34すると群衆はイエスにむかって言った、「わたしたちは律法によって、キリストはいつまでも生きておいでになるのだ、と聞いていました。それだのに、どうして人の子は上げられねばならないと、言われるのですか。その人の子とは、だれのことですか」。 12:35そこでイエスは彼らに言われた、「もうしばらくの間、光はあなたがたと一緒にここにある。光がある間に歩いて、やみに追いつかれないようにしなさい。やみの中を歩く者は、自分がどこへ行くのかわかっていない。 12:36光のある間に、光の子となるために、光を信じなさい」。
 イエスはこれらのことを話してから、そこを立ち去って、彼らから身をお隠しになった。 12:37このように多くのしるしを彼らの前でなさったが、彼らはイエスを信じなかった。 12:38それは、預言者イザヤの次の言葉が成就するためである、「主よ、わたしたちの説くところを、だれが信じたでしょうか。また、主のみ腕はだれに示されたでしょうか」。 12:39こういうわけで、彼らは信じることができなかった。イザヤはまた、こうも言った、 12:40「神は彼らの目をくらまし、心をかたくなになさった。それは、彼らが目で見ず、心で悟らず、悔い改めていやされることがないためである」。 12:41イザヤがこう言ったのは、イエスの栄光を見たからであって、イエスのことを語ったのである。 12:42しかし、役人たちの中にも、イエスを信じた者が多かったが、パリサイ人をはばかって、告白はしなかった。会堂から追い出されるのを恐れていたのである。 12:43彼らは神のほまれよりも、人のほまれを好んだからである。
 12:44イエスは大声で言われた、「わたしを信じる者は、わたしを信じるのではなく、わたしをつかわされたかたを信じるのであり、 12:45また、わたしを見る者は、わたしをつかわされたかたを見るのである。 12:46わたしは光としてこの世にきた。それは、わたしを信じる者が、やみのうちにとどまらないようになるためである。 12:47たとい、わたしの言うことを聞いてそれを守らない人があっても、わたしはその人をさばかない。わたしがきたのは、この世をさばくためではなく、この世を救うためである。 12:48わたしを捨てて、わたしの言葉を受けいれない人には、その人をさばくものがある。わたしの語ったその言葉が、終りの日にその人をさばくであろう。 12:49わたしは自分から語ったのではなく、わたしをつかわされた父ご自身が、わたしの言うべきこと、語るべきことをお命じになったのである。 12:50わたしは、この命令が永遠の命であることを知っている。それゆえに、わたしが語っていることは、わたしの父がわたしに仰せになったことを、そのまま語っているのである」。

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